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嵐の中、トークまで残ってくださったお客さまたち

昨夜は大型台風接近、しかし追悼特集の続く下高井戸シネマでは
「千年の愉楽」と「11.25自決の日」の二本立て上映。

そして森田必勝を演じた満島真之介さんと
自衛隊富士学校校長を演じたKUMAさんこと篠原勝之さんが
風雨強まる中、劇場に駆けつけてくださった。

上映後、トーク前に帰ろうとするお客さんに向かってKUMAさんが
「これからトークだぞ」
「台風だから…」
「台風なんて、まだ来ないぞ、台風とトークとどっちが大事だ」
と、よく考えると、よく分からない会話を交わした後に
「じゃ、聞いて行きます」と劇場内に戻られたお客様も。

そして、KUMAさん×満島真之介さんという
今回初の顔合わせコンビによるトークが始まった。

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「11.25自決の日」では、KUMAさんとの共演シーンがほとんどなかった満島さん
ゆっくり話をするのは、この日が初めてだった。
「クマ、お前はダラ幹なんだから、適当にやればいいから」
と監督に託されたKUMAさんは、その時に他の出演者たちが交わした
事前の打ち合わせを一切飛び越えて、カメラが回るや否やいきなり盃に口をつけて
乾杯の前に「あ、飲んじゃった!」
そのまま、全員がそれぞれの芝居を続け、KUMAさんは
三島の熱き防衛論も馬耳東風で、一人巻貝をほじくって美味しそうに食べ続け…。

「僕の事は、いつも容赦なく怒っていた監督だったけど
 あの時は、もう何も口も挟めない、という様子でKUMAさんの芝居見てましたね」
と、監督の横で小さくなって現場を見学していた満島さんが振り返った。

「俺はよ、役者じゃねえんだから、いいんだよ、あれで。
 監督はそんなものを俺には求めてないんだからよ。
 でも、お前さんは、ずっと怒られていたんだってね?」とKUMAさん。

監督に追いつめられて追いつめられて、人生で初めて感じた反抗心。
若松監督との出会いで引きずり出された感情を語った満島さんは
KUMAさんに、監督との出会いについて尋ねた。

「1970年代、新宿騒乱なんかが終わって少しぼやけた時代に
行き場のない若者やら小説家やら音楽家やら映画監督が
新宿ゴールデン街にはたむろしていたんだな。
そこでは、言葉で自分を主張していても、それがうまくいかないと
違う方法で触れ合う事がしょっちゅうあってな。
その触れ合いって、ちょっと痛いんだ。時々、血が出たりもするんだ。
その上、お巡りからも逃げなくちゃいけないから、忙しいんだ。
気づいたら、若松組対状況劇場で、殴り合いになったりしてネ。
若松さんとは、そういう触れ合いをしてたんだな」
場内からは、笑いが漏れる。

「そういう触れ合いに、僕はすごく憧れるんです。
 僕らの時代はメールだのネットだのが触れ合いだと思ってる。
 そんな中で、年齢もうんと上の監督と、現場で最後まで
 ケンカをやり遂げる事ができたんだと思ってます」と満島さんが語った。
「今も心のどこかで、ずっと、あの時感じた監督との瞬間を求めている。
 あの時の熱を、また得られるものだろうかと、ずっと探し求めているんです」

話題は、満島さんの彫りの深い顔立ち、父方の祖父のルーツにさかのぼり
さらには、カンヌ映画祭での出来事にまで及んだ。

「僕、前に大西さんや新さんから、
『初めての映画の現場を若松組で経験したなんて、
 お前は本当に幸せな若者だけど、同時に不幸せなやつだと思うよ』と言われたんです。
 こんな現場をデビューの時に経験してしまう事の幸せと不幸せ。
 僕はその狭間にいるように感じてます」

すると、KUMAさんが言った。
「お前さんの、ヨーロッパの血もひっくるめた特権的な肉体を持って
 若松さんから直接の圧力を受けながらやり遂げて、火がついたもの、
 その先鋭的なものを丸くしたりせず失わずにずっとやっていけば
 いつかまた、出会うんじゃないか。
 俺は、ワカマツイズムというのは、若松さんみたいなスタイルで
 映画を撮る人の事であって、若松さんといくら一緒に仕事をやって
 ワカマツイズムなんて言っても、真似できるものじゃない、
 ワカマツイズムを引き継ぐなんて、そんな事ができるわけないと思ってる。
 全てをなげうってでも、自分の怒りを映像にしていこうとする
 映画をやりたいばっかりに、サメ軟骨でも怪しいものでもなんでも売る。
 映画のためのカネだったら、なんだっていいんだ。
 そういう怒りを、なんとかして表現しようという奴が、
 今の原発だとか世の中を怒りを持って見つめている中学生くらいの子らの中から
 いつか出てくるんじゃないかと思っているんだよ。
 それこそがワカマツイズムだよ。
 きっとまた、いつか出てくるだろうと思ってるんだよ」

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少なくとも、若松監督の現場で直接にその圧力を全身で体感した事。
それによって満島さんの身体に遺されたものが、いつか出会う現場で
表現の渦に巻き込まれ、立ち現れてくる時が来る。
そんな事を想像し、胸が熱くなる。

「それにしたって、あれだけ脳梗塞やら前立腺やら肺がんやらを
 やっつけてきた人が、うっかりタクシーとケンカして負けちゃうんだから
 それが、やっぱり残念なんだよな、ね」

トーク終了後、会場から拍手が。
また、最近、三島の「豊穣の海」一巻を読んで
劇場に足を運んだというお客様からも
真之介君の演技に圧倒された、素晴らしかった、との発言も。

トーク後のサイン会では、トーク前に帰ろうとして
KUMAさんに止められて話を聞いて行ってくださった青年が
「残って話を聞いて本当に良かったです!」と
パンフレットにサインを求めてくださった。

満島さんの若い輝きと、KUMAさんの行間からさまざまがにじみだす言葉。

外は風雨激しさが増し、監督のお通夜の日、
あるいは監督が逝去した夜の冷たい雨を思い出しながら
しかし、胸の内側にフツフツと暖かなものが沸き上がる夜だった。

本日は、「海燕ホテル・ブルー」との2本だて。
そして、ヒロイン片山瞳さんと、「千年」後家役の安部智凛さんの女子トーク。
「海燕」のロケ地、伊豆大島は昨夜の台風で大きな被害を受けたとの事。
2年半前のロケを思い出しつつ、被害に遭われた方にお見舞い申し上げます。

そして、明日はいよいよ監督の一周忌のその日です。
下高井戸シネマでは「千年の愉楽」「近作メイキング」上映。
ジム・オルークさん、渚ようこさん、中村瑞希さんのライブ。
そして、トークに満島真之介さんの飛び入り参加が決まりました!
トーク:井浦新さん、大西信満さん、満島真之介さん、辻智彦さん(カメラマン)

さらに、ポレポレ東中野では監督のデビュー作「甘い罠」上映と
下高井戸シネマと同じラインナップによるライブ・トークを行います。

長い夜を過ごしたいと思います。
ぜひ、劇場に足をお運びください。

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2013年10月16日 11:41に投稿されたエントリーのページです。

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