若松孝二 レトロスペクティブ 2005
最もパワフル、最もスキャンダラス
  Wakamatsu Koji Retrospective 2005

・風 景 ・ 密 室

・北 へ

・テロリズム・犯罪の系譜学

・初期ピンクセレクション

・プロデューサ− ・若松孝ニ
壁の中の秘事
1965/74分/35mm→16mm/モノクロ/シネスコ


製作・若松プロダクション / 企画、制作・若松孝二
脚本・大谷義明(曽根義忠(中生)、吉沢京夫)
撮影・伊藤英男 / 音楽・西山登
出演・藤野博子、吉沢京夫、安川洋一、寺島幹夫

予備校生の青年が、団地という閉塞した空間で狂気を帯び始め、家族や原爆の後遺症を持つ昔の恋人と密会を重ねる向かいの人妻に怒りを爆発させていく。
ベルリン国際映画祭への正式出品によって、日本映画業界から国辱映画呼ばわりされたことはあまりに有名。
胎児が密猟する時
1966/72分/35mm/モノクロ/シネスコ


製作・若松プロダクション
企画、制作・若松孝二 / 脚本・大谷義明(足立正生)
撮影・伊藤英男 / 音楽、ナレーション・大谷義明
出演・山谷初男、志魔みはる

ある男がある女を監禁し調教しようとするが、最後には復讐を遂げられ、無惨に殺害されていく。ひとつの部屋、ひとりの男、ひとりの女、ひとつの寝台で繰り広げられるサドマゾ的な観念世界を突き詰めた足立脚本によって、類い稀なる密室映画の大傑作が生み出された。
   
犯された白衣
1967/57分/35mm/パートカラー/シネスコ


製作・若松プロダクション / 企画、制作・若松孝二
脚本・若松孝二(足立正生,唐十郎,山下治,若松孝二)
撮影・伊藤英男 / 音楽・高村光二
出演・唐十郎、林美樹、小柳冷子、木戸協萬子

海辺に佇む美少年は、看護士寮に誘われついて行くが、突然持っていた拳銃を発射し、次々と女性達をなぶり殺しにしていく。密室での唐十郎の即興的な演技をいかすために長廻しを多用し、映画と演劇という異なったジャンル間での越境的な表現の可能性を提示した。

処女ゲバゲバ
1968/66分/35mm/パートカラー/シネスコ


製作・若松プロダクション / 企画、制作・若松孝二
脚本・出口出(大和屋竺) / 撮影・伊藤英男
音楽・迷宮世界
出演・谷川俊之、芦川絵理、
   林美樹、大和屋竺、木俣堯喬

処刑のために連行されてきた男が、ボスの奇妙な死の儀式に従う振りをしながら、逆に一味を皆殺しにしていく。御殿場の荒野を密室に見立てるという大和屋脚本の傑作「ガセネタの荒野」のあまりに見事な映画化であり、公開タイトルは大島渚によって命名された。
   
ゆけゆけニ度目の処女
1969/65分/35mm/パートカラー/シネスコ

 
製作・若松プロダクション / 企画、制作・若松孝二
脚本・出口出(足立正生、小水一男) / 詩・中村義則
撮影・伊藤英男 / 音楽・迷宮世界
出演・小桜ミミ、オバケ、秋山未痴汚(道男)

マンションの屋上で輪姦された少女に、住民の少年が好意を寄せ、フーテン達を皆殺しにしたのち、夜明けに自らの身を投げ出す。都市の屋上という開かれた空間を逆説的に密室と捉えた新たなる実験的アプローチは、のちに展開されていく「風景論」の到来を予告した。
赤軍ーPFLP・世界戦争宣言
1971/71分/16mm/カラー/スタンダード




製作・若松プロダクション
共同編集・赤軍(共産主義者同盟赤軍派)、
       PFLP(パレスチナ解放人民戦線)

カンヌ映画祭への帰途でベイルートへ向かった若松と足立が、PFLP、赤軍と共闘し、パレスチナゲリラの「日常」を写した世界革命のためのニュースフィルム=プロパガンダ。日本における運動映画の金字塔と呼ばれ、赤バス上映隊による全国上映などが展開されている。
   
略称・連続射殺魔
1969/86分/35mm→16mm/カラー/スタンダード


製作・足立正生、岩淵進、野々村政行、
    山崎裕、松田政男、佐々木守
音楽監修・相倉久人 / 演奏・富樫雅彦、高木元輝
ナレーション・足立正生

不在の主人公・永山則夫が見たであろう風景をのみ写し続けた映画史上に残る異色のドキュメンタリー。この作品から生み出された「風景論」は、のちに多くの論争を巻き起こすこととなるが、若松の『17歳の風景』は、現在におけるそれらへの応答であると言えよう。
情事の履歴書
1965/88分/35mm/モノクロ/ワイド


製作・若松プロダクション / 制作・矢元照雄
原案・村井実
脚本・大谷義明(大和屋竺 榛谷泰明 曽根義忠(中生))
、若松孝二
撮影・伊藤英男 / 音楽・西山登
出演・千草みどり、寺島幹夫

東北の貧しい農家の娘が東京に売られ、男達に虐げられ搾取され続けながらも、なんとか主体的、自立的に生き抜こうと苦闘していく。ピンク映画という男性向けのジャンルにありながら、溝口健二、増村保造らの「女性映画」の系譜に位置づけられるべきであろう名作。
性の放浪
1967/78分/35mm→16mm/パートカラー/シネスコ


製作・若松プロダクション / 企画、制作・若松孝二
脚本・出口出(沖島勲、足立正生)
撮影・伊藤英男 / スチール・小水一男
出演・山谷初男、水城リカ、新久美子、沖島勲

気がつけば見知らぬ海辺の町に辿り着いていたサラリーマンの男が、家庭や会社といったしがらみを忘れ、気ままに放浪の旅を続けていく。全編を覆う過剰なまでのブラックユーモアは沖島脚本によるものだが、最後の上野駅のシーンで監督役として登場する姿は必見。
   
狂走情死考
1969/77分/35mm/パートカラー/シネスコ


製作・若松プロダクション/ 企画、制作・若松孝二
脚本・出口出(足立正生)
撮影・伊藤英男 / 音楽・山下武士
出演・吉沢健,武藤洋子,山谷初男,佐藤重臣,戸浦六宏

全共闘活動家の弟と彼を助けようと警察官の夫を誤って撃ち殺してしまった義姉が、北へ北へと奇妙な愛の逃避行を続ける。大島渚の同じくロードムービーである『少年』の撮影と伴走しながら、激しい吹雪のなかを二人が突き進んでいく風景は、あまりに圧倒的だ。
性輪廻/死にたい女
1970/72分/35mm→16mm/パートカラー/シネスコ


製作・若松プロダクション / 企画、制作・若松孝二
脚本・出口出(足立正生)
撮影・伊藤英男 / 音楽・ホルモン・アート
出演・島絵梨子、矢島宏、島たけし、香取環

死に損なった二組の男女が、偶然雪に囲まれた温泉旅館で再会し、そこで四角関係を織り成す。心中劇を通し、生=性と死を簒奪する国家主義的、ファシズム的論理を浮かび上がらせることで、自衛隊決起を促し、自害した三島由紀夫に対する批判的応答を試みた。
   
エンドレスワルツ Endless Waltz
1995/102分/35mm/カラー/ワイド


製作・松竹第一興行 / 企画・若松孝二
プロデューサー・清水一夫 / 原作・稲葉真弓
脚本・新間章正、出口出 / 撮影・佐光朗
音楽・吉田有信
出演・広田玲央名、町田町蔵

まだ誰もいったことのない極北へ向かおうとしたジャズミュージシャン・阿部薫と作家の鈴木いづみが、身も心も磨り減らしながら、生きて死んでいく様を徹底的に描いた話題作。阿部を通じて七〇年代というポスト六八年=運動以後における新しい可能性の在り方を模索した。
ある通り魔の告白/現代性犯罪暗黒編 
1969/72分/35mm/パートカラー/シネスコ


製作・若松プロダクション / 企画、制作・若松孝二
脚本・出口出(福間健二) / 撮影・伊藤英男
出演・福間健二、芦川絵理、花村亜流芽
    岩崎厚子、谷川俊之

何の変哲もない大学生の男が、街を自転車で徘徊しながら次々と女性に襲いかかり、連続暴行魔となっていく様を描く。当時、都立大生だった福間健二の脚本、主演による「現代性犯罪」シリーズの第一弾であるが、のちに撮られる連続暴行映画の原型にもなっている。
現代好色伝/テロルの季節
1969/78分/35mm/パートカラー/シネスコ


製作・若松プロダクション / 企画、制作・若松孝二
脚本・出口出(小水一男) / 撮影・伊藤英男
音楽・迷宮世界
出演・吉沢健、江島裕子、佐原知美、神田満、今泉洋

活動家の男は二人の恋人との性生活を謳歌し、監視を続ける公安警察を油断させ、時の首相の訪米を阻止すべくダイナマイトを手に単身で羽田空港へと向かう。大菩薩峠の弾圧によって頓挫した赤軍派の作戦は、この映画のなかに、今なお受け継がれているのだ。
   
理由なき暴行/現代性犯罪絶叫篇
1969/75分/35mm/パートカラー/シネスコ


製作・若松プロダクション / 企画、制作・若松孝二
脚本・出口出(坂口俊正) / 撮影・伊藤英男
音楽・ザ・ハードスケジュール
出演・村岡博、坂口俊正、城一也、
    東城瑛、浅香なおみ

青森から上京してきた貧乏でもてない一九歳の学生、浪人生、工場労働者の男三人組が、自らの属する下層階級に嫌悪し、金持ちや社会を呪いながら、強姦や覗きやナンパを繰り返していく。新宿の街をあてどなく彷徨う主人公達の姿に複数の永山則夫を見るだろう。
新宿マッド
1970/65分/35mm/パートカラー/シネスコ


製作・若松プロダクション / 企画、制作・若松孝二
脚本・出口出(足立正生) / 撮影・伊藤英男
音楽・つのだひろ、陳しんき、石川恵、柳田ひろ
出演・谷川俊之、江島裕子、寺島幹夫

アングラ芝居のメンバーだった息子が内ゲバで殺され、復讐のために郵便局員の父親が田舎から上京する。時代の変化に伴なう資本の要請によってアンダーグラウンドが浮上し、政治の季節も終息していくなかで、「新宿」という街を凝視し、その現在を批評的に描きあげた。
   
天使の恍惚
1972/90分/35mm/パートカラー/スタンダード


製作・若松プロダクション=ATG
企画、制作・若松孝二、葛井欣士郎
脚本・出口出(足立正生) / 撮影・伊藤英男
音楽・山下洋輔トリオ / スチール・中平卓馬
出演・吉沢健、横山リエ

東京総攻撃を計画する革命軍のメンバーが、米軍基地襲撃を皮切りに、無差別爆破による都市ゲリラ戦を展開していく大問題作。公開直前に劇場近くの交番が実際に爆破されるなどしたため、爆弾テロを助長する映画だとして上映反対運動が巻き起こっていった。
水のないプール
1982/103分/35mm/カラー/ワイド


製作・若松プロダクション
制作・若松孝二、浅岡弘行、清水一夫
脚本・内田栄一 / 撮影・袴一喜
音楽・大野克夫
出演・内田裕也、MIE、中村れい子、
    藤田弓子、タモリ、原田芳雄

平凡な地下鉄職員の男が、クロロホルムを手にしたことで一変し、一人暮らしの女性の部屋に夜な夜な侵入していく。実際に起きた事件を題材に、誰の心にも潜む狂気を、郊外の歪んだ都市空間を背景に、内田裕也の怪演、内田栄一の脚本によって見事に表現した。
   
性賊/セックスジャック
1970/70分/35mm/パートカラー/シネスコ


製作・若松プロダクション / 企画、制作・若松孝二
脚本・出口出(足立正生) / 撮影・伊藤英男
音楽・音楽集団映像グループ
出演・秋山未知汚(道男)、笹原茂朱、
    加賀美妙子、小水一男

指名手配された活動家たちを匿っている工場労働者の青年が、「薔薇色の連帯」を繰り返す彼らの前ではノンポリを装いながら、裏で黙々と過激な直接行動を続けていく。松田政男が指摘しているように、首相暗殺の後に残されているのは「天皇」という存在のみだ。
赤い犯行
1964/90分/35mm→16mm/モノクロ/ワイド


制作・東京シネマ=日本シネマ
製作・鷲尾飛天丸 / 企画・千葉実
脚本・吉岡道夫 / 撮影・伊藤英男
音楽・竹村次郎
出演・路加奈子、神山卓三、藤森和子、寺島幹夫

犯人に間違えられた男が検事の妻を誘拐し、平和な一家の日常生活を脅かしていく。警察をブチ殺すために映画を撮り始めた若松の反権力思想をストレートに表した初期の傑作で、小川徹がいち早く支持し、若松孝二という作家の名を広く世に知らしめる契機となった。
血は太陽よりも赤い
1966/80分/35mm/モノクロ/シネスコ


製作・若松プロダクション / 企画、制作・若松孝二
脚本・大谷義明(榛谷泰明、寺島幹夫)
撮影・伊藤英男 / 音楽・生明慶二
出演・大塚和彦、若原珠美、笠間雪男
    一の瀬弓子、寺島幹夫

受験を控えた真面目な男子高校生が様々な社会的不正に憤り、すべての「大人」への復讐を決意する。「俺が太陽になってやる」という台詞で締めくくられる自叙伝的な青春劇は、松竹ヌーヴェルバーグや日活アクションなどの影響を強く感じさせ、寺山修司も絶賛した。
   
鉛の墓標
1965/86分/35mm/モノクロ/ワイド


製作・国映 / 制作・朝倉大介
企画・田坂哲也、若松孝二 / 脚本・吉岡道夫
撮影・伊藤英男 / 音楽・竹村次郎
出演・野上正義、田代かほる、築地容子
    赤尾関三蔵、寺島幹夫

のしあがるためならば自らの愛する人を殺すことも厭わない一人のチンピラが、最後には同じ論理によって、その座を追われていく。当時話題となった激しい暴行シーンもさることながら、全体を貫くハードボイルドタッチの優れた演出が初期作品の実力の高さを示している。

乾いた肌
1964/80分/35mm→16mm/モノクロ/ワイド

制作・日本シネマ / 製作・鷲尾飛天丸
企画・千葉実 / 脚本・池田正一、中野道玄
撮影・伊藤英男 / 音楽・西山登
出演・三井由紀子、里見孝二、宮村京子、
    大原謙二、 寺島幹夫

箱根が舞台であったために、帰り道でドライブする夫婦と子供のサスペンス『逆情』と二本撮りされた。和光晴生が指摘しているように、初期若松映画における憎悪の表現は、個別な他者ではなく、日常性やそれを形成する市民社会秩序そのものに向けられているのだ。
女学生ゲリラ  (足立正生監督)
1969/73分/35mm/パートカラー/シネスコ


製作・若松プロダクション / 企画、制作・若松孝二
脚本・出口出(足立正生) / 撮影・伊藤英男
音楽・迷宮世界
出演・芦川絵理、花村亜流芽、新田等々、
    平岡正明、谷川俊之

高校生五人組が卒業式粉砕のため、自衛隊から武器を奪取し、富士山中を根拠地に立て籠もり、ゲリラ戦を展開していく。狂った自衛官に三島的ファシストの末路を、極限状態での内ゲバ的状況に連合赤軍事件を予感させるが、『処女ゲバゲバ』との二本撮りである。
毛の生えた拳銃  (大和屋竺監督) 
1968/70分/35mm/パートカラー/シネスコ


製作・若松プロダクション / 企画、制作・若松孝二
脚本・大山村人(大和屋竺) / 撮影・伊藤英男
音楽・相倉久人
出演・吉沢健、麿赤児、大久保鷹、松田政男、佐藤重臣

二人組の殺し屋が主人公でありながら、どこかおとぎ話のような不条理世界が交錯していく異色のアクション映画。『荒野のダッチワイフ』、若松の『裸の銃弾』、鈴木清順の『殺しの烙印』と繋がる殺し屋シリーズの一本であるのだが、公開タイトルは『犯す』であった。
 
 
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